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プロジェクトリーダーからのあいさつ
●過去に例のない「振付師育成カリキュラム」の完成の裏側
「振付」という作業は、個人の発想に依拠する作業であり、人によってもやり方や考え方は異なります。なかには、「振付」のつくり方は、振付師にとってはまさに仕事の「生命線」だとして、企業秘密だという方もいらっしゃいます。プロを目指す人が、活躍する振付師のアシスタントとして付きっきりで学ぶケースが多いのも、そのような現状があるからです。
しかし幸いにも私は、これまで夏先生の書籍づくりを通し、夏先生のダンスにおける向き合い方、指導の方法、考え方など、振付にまつわるあらゆるものを「文字化」する機会に恵まれました。それは決して数年でできることではなく、夏先生の30年以上におよぶ経験や知識をすべて文章化するだけでも10年以上の年月をかけて行うという、膨大な作業でした。時には夏先生がビジネスマンの幹部研修や新人研修などでご講演される際にご一緒したり、プロアスリートに向けてお話をされる現場に同席し、もちろんアイドルを指導する現場にも入って、「指導」の際に語っておられたひと言ひと言を書き止めて、その作業は完成を迎えました。
そうして夏先生の遺作となった作品も3年の制作日数をかけて完成しましたが、当時、私はその作業の価値をまだちゃんと理解できていませんでした。皮肉にもそれを本当に深く理解できたのは、夏先生の訃報に際した後のことで、プロデュースさせていただいた「夏の魂に出会う会(お別れ会)」ではこんなにも多くの方の心に夏先生の「教え」は生き続けており、人生の指針となっているんだなと、思い知ったのです。
それは一方で、いまのアイドル業界においては心理支援が整備されておらず、まだ社会経験もない子どもたちがさまざまな人の言葉や行動にさらされ、どう悩みを解決すべきか、どう自分の人生を選択していくべきかがいまだにわからない、ということでもあることに気づきました。私は心理の国家資格でもある公認心理師として家族問題および文化人の心理支援にも携わっています。本来の自己表現が思うようにできないばかりか、心身に不調を抱え、長く治療に専念する必要が生じているケースが多発している状況に、胸が締め付けられる思いでした。今回のプロジェクトを通して、そんな苦しい思いをするアイドルを一人でも減らし、ゼロにするお手伝いができればと思いを強くしました。
本カリキュラムは夏先生が長い指導歴で磨き上げてきた「アイドルへの振付」を柱としており、ある意味で特化したカリキュラムとなっています。しかしそれは決して間口を狭めているわけではなく、夏先生の専売特許ともいえる「振付によって人を輝かせる、成長させる」ということを学べるカリキュラムにしたかった、という思いからでもあります。カリキュラムを「振付」の授業だけにせず、「指導方法」の授業も取り入れ、指導方法も含めて卒業制作を行うようにしているのも、「振付師=教育者」であるという信念を本カリキュラムでは学んでほしいという思いからです。単に振付師を育てるだけではなく、教え子たちにとって人生の指針を与えられるような振付師を育ててこそ、はじめて振付師が抱える課題や、アイドルが抱える課題を解決すると考えています。
●振付を通した社会貢献、そして振付をダンス以外の分野へ
ダンスや振付は、いまやSNSには欠かせません。ひと昔前であれば「英語ができる人材がほしい」「ウェブに詳しい人材がほしい」と言われていたビジネス業界において、すでにダンスができる人材が注目を集めるようになってきています。今後ますます「ダンスや振付ができる人材がほしい」と言われるようになるのは間違いありません。
現在、振付師に依頼する際のサービス内容とコストがわかりにくいと指摘されている現状に対しても、明瞭な価格設定で提供することができていくでしょう。私たちが振付師のみの集団ではないからこそ可能になっていくと考えています。「振付師育成カリキュラム」も、私のような夏先生の教えを言語化してきた存在と、その教えを何年にもわたって現場で教え続けてきたお弟子さんたちの存在、その両方の力と思いがあって初めて生まれたものです。
そして何より、「日本人総ダンサー計画」を夏先生が生前思い描いていたように、私たちの日常生活のなかにダンスや振付が当たり前のように浸透し、自分を表現するツールとして、そして自分を成長させ「エース」として輝かせるツールとして、アイドルはもちろんビジネスの現場、日常のコミュニケーションや普段使いのSNSなどでも活用してもらえる社会になるよう、本プロジェクトを通して貢献していけたらと心より願っているばかりです。
私自身もダンスや振付、そしてアイドルをはじめとした「表現者」たちを愛する一人として。
プロジェクトリーダー
編集者および公認心理師/綿谷翔